• 【2022年アニメ総括】『SLAM DUNK』『すずめの戸締まり』話題性と作家性が牽引した劇場作品
  • 【2022年アニメ総括】『SLAM DUNK』『すずめの戸締まり』話題性と作家性が牽引した劇場作品
2022.12.30

【2022年アニメ総括】『SLAM DUNK』『すずめの戸締まり』話題性と作家性が牽引した劇場作品

公開45日間で興収100億円を突破した話題作『すずめの戸締まり』 (C)2022「すずめの戸締り」製作委員会


【〈作家的監督〉たちの存在感】

編集長 一方で、湯浅政明監督『犬王』、いしづかあつこ監督『グッバイ、ドン・グリーズ!』など作家性の強いタイトルも印象的でしたね。

藤津 確かに。『犬王』と『ドン・グリーズ!』は海外の映画祭に出品することを最初から想定していたプロジェクトと認識していて、作家性という面では2大タイトルでした。最初に出たような大ヒット作や人気原作の色が強い作品が目立った一方で、作家性の強い監督や新しい演出家の人たちが着実に自分たちの世界を作ってくれたなというのも、2022年の印象としては大きいです。

石田祐康監督は『雨を告げる漂流団地』でジュブナイルらしさに溢れたオリジナル作品を完成させたし、田口智久監督『夏へのトンネル、さよならの出口』は “引き算” の演出が効いていて僕はとても好きでした。原恵一監督『かがみの孤城』もこの記事が掲載される頃には公開中ですよね。これもまた引き算的で味わい深い演出がたくさん観られました。

編集長 原監督は作家性も強いですが、「これぞ原節」的な派手でクセのある映像というより、物語を活かす堅実な演出をする方ですからね。

藤津 必要なものを必要なアングルで撮ればいいという姿勢が徹底していて、ハッタリみたいなことはしないとご本人もおっしゃっていますからね。『かがみの孤城』もちょっとホラー的な演出かなと思わせるところもあるんですけれど、ことさらに刺激的な絵を撮っているわけじゃなくて、普通に撮っているんだけれど、ありそうな切り返しをしないんですよね。それでぐっと主人公が感じる圧迫感に寄り添った表現になっている。
ちなみに『かがみの孤城』もうそうですが、今年はなぜかジュブナイル色が強いですね。

編集長 そうですね。磯光雄監督『地球外少年少女』から始まって……。

藤津 『雨を告げる漂流団地』と団地つながりで話題にもなった。黒川智之監督の『ぼくらのよあけ』が同時期に公開されたのは本当に偶然で、監督たちも驚いたと言っていました(笑)。
ジュブナイル的なものはアニメと相性がいいと言われるし、それは確かにあると思うんです。子供の夢、子供から見た世界を描く際に、実写よりアニメーションのほうが優しく子供に寄り添える。
▲ジュブナイル感覚と “団地へのノスタルジー” が独特の空気を生んだ『雨を告げる漂流団地』/(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ


編集長 ジュブナイル風味で監督の個性を前面に出したという意味では、荒木哲郎監督『バブル』もありました。では、各作品の興行面での印象はいかがですか。

藤津 言い方としては難しいですが、僕は出来映えが素晴らしい映画を観て、自分自身が強い感銘を受けると、「別にこれ、ヒットしてもしなくてしなくても関係ないな」って気持ちが出てきてしまうんです(笑)。その作品が存在する、観られるというだけで嬉しいので。

編集長 わかります(笑)。観客と作品の距離ってそういうものですよね、「自分がこれだけ楽しめた作品と出会えた」というのは個人的な体験に基づいているところもありますし。

藤津 もちろん、関係者のみなさんが「ヒットしてほしい」と願うのは当然ですが……ある意味、『すずめの戸締まり』にも僕はそういう感覚を受けました。
おそらく世間では興行成績の数字の話が出ていると思いますが。実は『すずめの戸締まり』は新海誠監督がやりきっている、すごく攻めた映画と感じていて、個人的には「ここまでテーマに真摯に向かい合っているなら、もう数字はどうでもいいな」という気持ちになりました。

編集長 『すずめの戸締まり』は大作であると同時に作家性の高い作品で、まさに現在のアニメ映画の傾向を象徴するような作品ですね。

藤津 個人的には『天気の子』の方が好みかなとは思いますが、「すごい」という形容が当てはまるのは『すずめの戸締まり』、という気がしています。
初見で一番感動したのは “死んだ人” を出さなかったことです。今回のような物語って幽霊的、もしくは幻想的な形で死者を登場させて、「死者によって自分の生が肯定される」という方向に行きがちなんです。実際、そのほうがわかりやすいですからね。
でもこの作品は、“今まで生きてきた自分” を “今、生きている自分” が肯定する、生きている者が生きている者のとして世界を考えなければいけないんだ、という話になっていると僕は感じて、そこに感動したんです。

編集長 確かに “扉の向こうの常世の国” など超常的、非現実的なファンタジー要素を導入しているけれど、その空間は荒れ果てた世界で死んでしまったお母さんと再会することもなかった。そこは非常にストイックですね。

藤津 つまり死は “無” であり、死んだ人はけっして帰ってこない。扉を閉める時に「いなくなった人たちの声を聞く」というのは、本当に物理的に声を聞いているのではなくて、死者が何を考えていたのか、その人たちが何を感じていたのかを想像力でキャッチすること――そしてその“想像力”がクライマックスの展開にまでつながっているのが非常に面白いと思いました。
東日本大震災がテーマの映画だけれど、それに限らず身近な人が亡くなった経験がある人なら誰でも心に響く作品ですよね。

アニメージュプラス編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事

RELATED関連する記事

RANKING

人気記事