• 新海誠『すずめの戸締まり』に続く次回作で「アニメーションの可能性を広げる」
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2023.10.18

新海誠『すずめの戸締まり』に続く次回作で「アニメーションの可能性を広げる」

『すずめの戸締まり』 (C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

新海誠監督最新作『すずめの戸締まり』Blu-ray & DVDの発売を記念して、新海監督の1万字を越える特別ロングインタビューを前・後編にわたってお届けする。公開から間もなく1年となる本作を、新海監督はいかに振り返るのか。

『君の名は。』や『天気の子』のヒットで日本を代表するアニメーション監督となった新海誠の最新作『すずめの戸締まり』は、2022年11月11日より全国420館で公開された劇場長編アニメーション映画で、17歳の少女・鈴芽(すずめ)が “閉じ師” の青年・草太と出会い不思議な出来事に巻き込まれ、やがて導かれるように九州、四国、関西、そして東京へと “戸締まりの旅” を続けていく物語。
東日本大震災というシリアスな題材に真摯に向き合いつつ、想像力に溢れたファンタジーとして卓越したストーリーテリングと美しい映像で観客を楽しませるという、新海監督ならではの極上のエンターテインメント作品だ。

>>>新海誠監督ロングインタビュー前編はこちら!

インタビュー後編では、パッケージ収録の特典映像を手掛かりにアニメーション監督・新海誠が今、感じている自分自身の立ち位置について語ってもらった。
▲新海誠監督

◆エンタテインメントとテーマの共存◆

ーー今回のパッケージに収められた映像特典のひとつ「メイキングドキュメンタリー『すずめの戸締まり』を辿る」の中で、試写に臨んだ新海監督が「エンタテインメントを作ったので楽しんでください」という旨の挨拶をなさっていたのが印象的でした。

新海 はい、関係者向けの試写の時ですね。

――一方で今作は震災というシリアスでデリケートな題材を扱ってもおられます。そことエンタテインメントのバランスは、ご自身の中でどう考えていらっしゃいますか。

新海 難しいのですが……東日本大震災で受けた自分の中の大きなインパクトや、日本社会にいまだに歴然と残っている巨大な傷のようなものに、自分の作品の中で手を掛けてみたいという気持ちを抱く中で、自分はアニメーション映画の監督なので、エンタテイメントとしてそこに触れることが、自分にできる一番誠実な向き合い方なんじゃないかと思いました。

たとえば、震災を事実そのもので語る、事実を正確に伝えるということであれば報道であったり、語り部であったり、いろいろな方法があります。フィクションでも、小説でいえば、去年、佐藤厚志さんの『荒地の家族』が芥川賞を受賞しましたが、あれは実際の被災者の方が地元で暮らしながら書いた小説ですよね。実写映画なら諏訪敦彦監督の『風の電話』という作品があって、それらの作品のように、震災をダイレクトに描くものもあると思います。けれどいずれも、被災の当事者でもない、ドキュメンタリー的なこともできない、報道の人間でもない僕には、そういった描き方をすることはできない。

でも、逆にアニメーションの監督である自分にしかできない語り口があるはずで、その自分にしかできないことの大きなひとつがエンタテインメントだなと思ったんです。つまり、観客に「観たい」と思ってもらえるもの。「ちょっと重そうだから見ない」ではなくて、「面白そうだから見たい」と思ってもらい、僕自身が考えたいことや考えてほしいことを「面白さ」の中にくるんで差し出し、観てもらって「面白かった」と感じてもらうことが、アニメーション映画にならできる。だから、エンタテインメントであることが、この映画にとって最も大事なことだと思いながら作りました。とにかく面白いものを作ろう、そういう気持ちでした。

ーー問題意識やシリアスな情動を表現する作家性と、「面白い作品を作ろう」というエンタテインメントの意識が、どちらが先とか上とかではなく、同列に共存している。

新海 自分の中にあるものをアニメーションという手段を使って表現することは、僕自身がアニメーション監督という仕事に就いた以上、この作品に限らず追い続けなければいけないテーマで、「語りたいこと」と「観客が観たいもの」の最大公約数をいかに摑むかが、アニメーション映画を作るということだと思います。
『すずめの戸締まり』はその中でも、語りたいものが震災というまだ生々しい出来事だった。だからこそ、むしろ思いきりエンタテインメントの語り口で作る必要があるんじゃないかと思っていたーーそういうことなのかなと思います。

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

アニメージュプラス編集部

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