作家・西尾維新の特異な小説世界を、スタジオ・シャフトが他に類のない独特な映像で描き出すアニメ〈物語〉シリーズ。その最新作として、1月12日(金)より映画『傷物語-こよみヴァンプ-』が公開中。〈物語〉シリーズの主人公である阿良々木暦が、後にさまざまな怪異と関わることになるきっかけとなる吸血鬼・キスショットとの出会いを描いた本作は、『化物語』の前日譚にして物語の原点。2016年に「I 鉄血篇」「II 熱血篇」「III 冷血篇」の三部作として劇場公開された作品をあらたに1本の映画として再構成した今回の『-こよみヴァンプ-』だが、単なる総集編にとどまらず、独特の空気感や時間感覚が魅力的な、見応えある映画に仕上がっている。監督・脚本の尾石達也とプロデューサーの石川達也(アニプレックス)に本作について語ってもらうインタビューを前・後編にわたってお届けしよう。前編では、三部作が1本の映画になった経緯とその意義について語ってもらった。◆ヴァンパイア・ストーリーとして再構成◆
――『こよみヴァンプ』を拝見しましたが、とても面白かったです!尾石 本当ですか?
石川 どこが面白かったですか?
尾石 そう、それを聞きたいです。
――1本にまとまることで、ベースとなった『傷物語』三部作とは異なる味わいが生まれていると感じられて、そこが特に楽しめました。尾石 ああ……そう感じていただけたなら嬉しいです。
――そこでまずお聞きしたいのですが、三部作を1本の映画にまとめるという企画は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか。石川 『傷物語』も含む〈物語〉シリーズはもともと現・アニプレックス代表の岩上(敦也)が初代プロデューサーでしたが、岩上は「『傷物語』を“ヴァンパイア・ストーリー”として1本の映画にまとめて世に出したい」というプランを当初から持っていたようです。それで、三部作が完成した直後に尾石監督に、改めてご相談をしたという経緯ですね。
尾石 もともと(三部作の)絵コンテを描いている時から、自分では1本で作るつもりで描いていたのですが、とはいえ三本で作りきって、非常に大変だったこともあり自分なりに達成感はありました。でも、三本目が終わった直後に岩上さんから「少しテイストを変えて、シリアスなヴァンパイア・ストーリーとして(1本に)まとめてみないか」というお話をいただき、一度作りきったという気持ちもあったけれど、まったく別のストーリーと捉えて再構成するのは確かに面白いと、自分でも感じたんです。ですからお話をいただいてすぐ、1本にまとめる作業に入っていきました。
――ゼロから映像を作るのではなく素材を再構成するということで、いつもの監督作業と違う部分もあったのでは。尾石 そうですね。でも「編集」という行為は好きなので、まったく苦ではなくて。むしろ楽しかったです。編集作業自体も比較的早く終わって、実は映像だけなら数年前に完成していたのですが、コロナ禍の影響で音響以降の作業が遅れて、結果(公開が)今のタイミングになってしまったんです。
――3部作を編集する「素材」として捉えた際に、改めて何か感じたことはありましたか?尾石 うーん、改めて感じたことかぁ……。
石川 羽川に対するご自身の偏愛、じゃないですか?(笑)
尾石 ……えっ?(笑)
一同 (笑)。
尾石 まあ……『傷物語』三部作は『化物語』が終わった直後から地続きで作り始めたのですが、『化物語』の時は戦場ヶ原ひたぎというヒロインにずっと感情移入して作っていたわけです。で、あまりに入れ込みすぎて羽川に対してあまり愛を注げなかったという気がして、終わった後に「ちょっと不憫だな」と感じたんですね。
だから『傷物語』では羽川を美味しくしてあげたいということで、三部作の時は少し羽川に肩入れしたんです。ところが、三部作が終わってみると今度はキスショットに少し申し訳ないなという気持ちになって……(笑)。
――本来はキスショットがメインヒロインのエピソードなのに、と。尾石 ですから、今回の『こよみヴァンプ』では、キスショットと暦の関係に焦点を当てることを意識して編集していったというのはありますね。
――それでも、今回の『こよみヴァンプ』からも羽川への愛は感じられました(笑)。石川 ははは(笑)、拭いきれていない。
尾石 そうですねぇ……(苦笑)。
石川 まあ、でも『傷物語』を「暦の物語」と考えると、そこは拭えないですよね、きっと。
(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト