• 『傷物語 -こよみヴァンプ-』尾石達也監督が語る「三部作とは別物の新しい物語」
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2024.01.15

『傷物語 -こよみヴァンプ-』尾石達也監督が語る「三部作とは別物の新しい物語」

(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト


◆初見の人たちへ〈物語〉シリーズを届ける映画に◆

――石川さんからご覧になって、今作での尾石監督の仕事ぶりはいかがでしたか。

石川 尾石さんが言ったとおり、編集は本当にスピード感をもって進めていただきました。最初のバージョンではさすがにもう少し尺が長かったのですが、岩上からは「尾石さんならまだ短く切れる」と(笑)。本当かなと思ったのですが、確かに尾石さんは見事に期待に応えてくれました。もともと三部作全体で3時間半くらいあるんです(「I 鉄血篇」64分、「II 熱血篇」69分、「III 冷血篇」83分)。それをまず40分くらい短くしていただいて、そこからさらに30分くらい短くしていただいて現在の尺になっていますが、切ったことでより映画としてまとまりました。そこはやはり、尾石監督の技術と才能だなと思いました。

――例えば冒頭の暦と羽川の出会いのシーンなどに象徴されるように、どのシーンも非常にしっくりとしたリズムで贅沢に時間を使っており、全体の尺も一般的なアニメ映画よりやや長めです。それなのに、観ていて「長い」と感じず一気に観られます。この時間感覚が不思議でした。

尾石 TVと映画ってやはり方法論が違うと思うんです。(観客の意識が)能動的か、受動的かという点で。映画は、わざわざお金を払って映画館まで観に行って、暗闇でスクリーンと対峙することになる。だから、暦の行動を一緒に疑似体験してもらえたらいいなと思っていました。
ですから、『化物語』とはカッティングのリズムを変えて、ゆったりしたリズムにしたいと、確かに考えてはいました。

――キャラクターの魅力は立っているし、物語も実は比較的シンプルで素直に観られる。でも、画面の連なりを観ていくと非常に前衛的な映画を観ている感触もあり、でも尖りすぎて見辛いということもない。独特なバランスの映画を観ているような印象でした。

尾石 それはとても嬉しい感想です。

石川 僕も同じような印象を持っています。極端に言うと「I 鉄血編」の約60分強よりも、150分近い今回の『こよみヴァンプ』のほうが観ている体感時間が短い。「I 鉄血編」は重厚で情報量がこれでもかと詰め込まれているので、やはり観終わった後にガツンとくるので……。

尾石 疲れちゃうんですね(笑)。

石川 いえ、「疲れる」とは違うのですが(笑)。「I 鉄血編」は(三部作の第一部なので)お話に解決がないですが、今回は2時間30分ではあるけれど解決があるから、物語を最後まで咀嚼できる。その「読後感」というか、観終わった後の感覚が影響しているのかなと、自分では解釈しているんです。そういう意味でも『こよみヴァンプ』は、本当に1本の映画として楽しめるものにしていただけたなという印象ですね。

――尾石監督ご自身は、完成した『こよみヴァンプ』にどんな手応えを感じているんでしょうか。

尾石 なかなか客観的には観られなかったんですが……昨日初号試写があって、久々に通して全編を観て、自分で「意外とイケるかな」と(笑)。

石川 意外じゃないでしょう(笑)。

尾石 割と編集したことが気にならなかった。自分では勿論、三部作からカットしたところを明確に覚えていますから、そこがどう影響するかなと気にしていましたが、「これは別物の、新しい物語だ」という意識で観れば大丈夫かなと感じました。
その意味では、三部作を観てくれたファンの方も新しい気持ちで、まったく別物だと思って観てもらえると嬉しいですね。

――しかも〈物語〉シリーズ内の位置づけは「前日譚」ですから、新しいファンにも今作を入口に『化物語』などへ進んでもらえますよね。

石川 そうなんです、シリーズをまったく知らない人にも観てほしいです。

尾石 石川さんと岩上さんにも最初に、〈物語〉シリーズのファンではない初見のお客さんに届ける映画にしてほしいと、確か言われた気がします。

石川 そう、しかも国内外問わず、新しいファンに届けばありがたいと思っています。

>>>映画で新たな魅力が広がる『傷物語 -こよみヴァンプ-』場面カットを見る(写真9点)

(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

アニメージュプラス編集部

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