• 『COWBOY BEBOP 天国の扉』が描き出す〈割り切れない〉物語とアクション
  • 『COWBOY BEBOP 天国の扉』が描き出す〈割り切れない〉物語とアクション
2022.11.19

『COWBOY BEBOP 天国の扉』が描き出す〈割り切れない〉物語とアクション

(C)サンライズ・ボンズ・バンダイビジュアル


アクションに託された複雑な感情

それを踏まえて堪能してほしいのが本作の最大の見どころ、スパイクとヴィンセントがクライマックスで繰り広げる鮮烈なバトルアクションだ。
圧倒的な迫力、スピード感、重量感、立体感、そしてトリッキーなアイデアが詰め込まれた、このシーンに大きな貢献をしているのは、アクション作画監督を務めたアニメーター・中村豊。
TVシリーズから『カウボーイビバップ』に参加し数々のアクションシーンで活躍していた中村は、上記のクライマックスでは絵コンテも担当、いわば “殺陣師” としてスパイクとヴィンセントの戦いを作り上げている。
ブルース・リーを師と仰ぐジークンドーの使い手であるスパイクと、人間離れした身体能力を持つヴィンセントの肉弾戦は、極上のアニメーションとして鮮烈な印象を与える。

しかも、そのアクションは複雑な感情を背負っている。スパイクとヴィンセントの戦いは、ダイナミックでスピーディーではあるが、決して “爽快” ではない。切迫した空気の中で壮絶な命のやりとりが繰り広げられる、鬼気迫るシーンとして描き出されている。
ある忌まわしい過去のために記憶を失い、虚無と孤独の中で世界を呪うヴィンセントの姿に、スパイクは合わせ鏡のように 自分自身を見る。スパイクもまた悲しい過去を背負い、その胸に深い孤独を抱えている男だ。ビバップ号の仲間と出会うことがなければ、彼もヴィンセントのようになっていたのかもしれない。魂の深部で共鳴する二人の男、だが、それ故に彼らは否応なく衝突する……。
行き詰まる死闘の緊張感に引き込まれながら、いつしか躍動する映像からは不思議なやりきれなさが漂いはじめ、観る者の胸には「この2人は何のために戦っているのか?」という複雑な感情がわき上がってくる。

明快さや痛快さをあえて抑え込んだストイックなドラマと、極上のアニメーション映像が絡み合うことで生まれたクライマックスの重厚な手応えーーそれは確かに、『天国の扉』という “映画” だからこそ感じられる体験なのだ。

>>>世界が熱狂!『COWBOY BEBOP 天国の扉』名場面をチェック(写真8点)
(C)サンライズ・ボンズ・バンダイビジュアル

アニメージュプラス編集部

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