• 手塚治虫の無茶苦茶すぎる現場がアニメ作家を育てた「虫プロ」の時代【丸山正雄のお蔵出し】
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2023.08.26

手塚治虫の無茶苦茶すぎる現場がアニメ作家を育てた「虫プロ」の時代【丸山正雄のお蔵出し】

左から杉井ギサブローさん、丸山正雄さん、高橋良輔さん (C)浦沢直樹/長崎尚志/手塚プロダクション/「PLUTO」製作委員会


◆虫プロが目指したのは “作家集団”◆

丸山さんは『悟空の大冒険』の企画成り立ちもに関しても、「当時23歳の総監督(杉井ギサブロー)が突然、『僕、手塚さんのじゃない絵でやります、お話も全部変えます」と言い出して、それをOKしちゃうのがすごいよね。普通、ダメって言うよね」と、手塚の柔軟な姿勢と指摘する。
『悟空の大冒険』は手塚治虫『ぼくのそんごくう』を原作としつつ大幅に内容を改変して作られた作品とされているが、杉井さんは実際の企画立ち上げの経緯を詳しく説明してくれた。

「僕は最初『ぼくのそんごくう』をやりたかったけれど、(1960年の東映動画『西遊記』として)一度やっているからダメだということで、それだったら中国の『西遊記』をそのままアレンジしたギャグものでやらせてほしいと言ったら、手塚先生が『それならいいよ』ということになって、まずパイロット(『孫悟空がはじまるよーー黄風大王の巻』)を作ったんです。オサムちゃん(出崎統)がコンテを切ってくれて作ったんだけれど、僕は何かもの足らなく感じて。『こんなものを1年間もやるのはとてもじゃないけどつまらないから嫌だ』と思って、手塚先生に『僕、やめます』って言ったんです(一同笑)。やめますって、『アトム』の後番組としてもう決まっちゃっているし、まるごと1本作っているのにやめるってことはもうクビだな、これで手塚先生との関係も終わりだなと覚悟したけれど、手塚先生は『ぎっちゃん(杉井さんの愛称)、だったら自分のやりたいことを好きなようにやりなさい。僕は一切、口を出しませんから』と言ってくれたんです。だったらもうちょっと飛んだものをやるぞ、と」

その結果生まれたのが、破天荒でアナーキーな『悟空の大冒険』の作風だったのだ。

「もともとの手塚先生が持っていた(虫プロ)イメージは作家集団だったと思うんです。自分が一応責任者だから社長という肩書きでいるけれども、作家の集まりなんだという意識が強かった。『アトム』をやっている時も “企画箱” というのがあって、『しばらくはみなさんで『アトム』をやってもらいますけど、必ずぎっちゃんの作品を作れるような時間を取りますから。この箱の中に何か企画を入れといてください』と言っていました。だから、集まってくる人たちもみんな自由人――自分がやりたいことをやっている人たちの集まりという印象が、今から思うととても強いし、非常にわがままに仕事ができた場であったことは間違いないです」(杉井)

丸山さんもその言葉に賛同し、こう語った。
「あの(虫プロ時代の)無茶苦茶さを超えない限り、今のアニメはこんな風にはならなかったと、実体験として僕らは思います。あの手塚さんの無茶苦茶さがあって、50年経って、やっとここまで来たのかな、と。手塚治虫がいなかったら多分、日本のアニメーションの前進はもっと遅れたんじゃないか……というか、今のようにはなっていなかったかもしれない。漫画界としても手塚治虫の功績は凄いけれど、虫プロを作ってアニメに貢献したという意味でも国民栄誉賞をもらってしかるべき人だと、僕は思います」。
▲杉井ギサブローさん
▲丸山正雄さん

大胆さや、寛容さや、自由さや、良い意味での「いいかげん」さ。
その根底にある “作家集団” という志向。
そんな手塚治虫のアニメに対する姿勢が虫プロを作り上げ、そこから後のアニメを支える多数の人々が巣立っていったーー「手塚治虫と虫プロ」という存在の重要さを再確認し、日本のアニメの歴史が垣間見えるような、興味深いイベントだった。
▲一番左はモデレーターの原口正宏さん

次回の《丸山正雄のお蔵出し》開催は9月3日(日)。
「丸山正雄とロボット」篇と題して丸山さんが過去に手掛けたロボットが活躍する3作品がピックアップされ、上映作品は1976年のTVシリーズ『大空魔竜ガイキング』第11話、1977年のTVシリーズ『ジェッターマルス』第22話、そして2002年の劇場版『WXIII 機動警察パトレイバー』。ゲストとして、出渕裕(デザイナー、アニメ監督)、真木太郎(プリデューサー)、ゆうきまさみ(漫画家)、吉浦康裕(アニメ監督)が登壇予定だ。

※手塚治虫の「塚」は旧字体、出崎統の「崎」は「たちざき」
(C)浦沢直樹/長崎尚志/手塚プロダクション/「PLUTO」製作委員会

アニメージュプラス編集部

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