• 『ガンダムSEED』の終着点「鳴動の宇宙」が示す希望と絶望のドラマ
  • 『ガンダムSEED』の終着点「鳴動の宇宙」が示す希望と絶望のドラマ
2023.09.22

『ガンダムSEED』の終着点「鳴動の宇宙」が示す希望と絶望のドラマ

(C)創通・サンライズ


『SEED』という作品のテーマは「非戦」である、と福田己津央監督は語っている。「非戦」とは戦争そのものを否定する考え方のことであり、その希望のサンプルこそが、本作でのキラとアスランの物語であった。
二人もまた、かつてはその「憎悪の悪循環」にはまってしまっていたわけだが、『遥かなる暁 HDリマスター』での確執とその後悔を経て相互理解へと至る。自らの、そして相手の痛みの意味を理解できたからこそ、彼らの胸の内には揺るぎない意志があり、その行動には一つの迷いもない。

だが、この戦争には「人類そのものへの憎悪」を掲げて行動する人物も絡んでいる。それは、ザフトのラウ・ル・クルーゼだ。アズラエルに意図的にニュートロンジャマーキャンセラーの情報を漏洩し、核戦争を促した彼の歪んだ行動の理由は、その出自にまで遡らなければならない。人類とコーディネイター、その両方に居場所を見つけられなかった孤独と絶望を吐露する場面、さらにドラグーンシステムを導入したプロヴィデンスガンダムに搭乗しキラと激しい戦いを繰り広げる場面は本作の大きな見どころとなっている。

ここで、本作のモビルスーツの描写についても触れておきたい。『SEED』に登場する「ガンダム」の名称がついたモビルスーツの特徴と言えば、ひと目でその機体を認識することができるシルエットを持ったデザインが挙げられる。

さらにモビルスーツのポージングやアクションが、いわゆる戦闘兵器のそれとは一味違う、まるで人間が装甲を着て演じているかのように描写されているところにも注目してほしい。「チーフメカ作画監督」というメカニック全体の作画監督に当たるポジションを務める重田 智を中心にして、本作ではモビルスーツのメカニカルなギミック表現に加えて、搭乗するパイロットの表情や感情をトレスして見せるような描かれ方が意識的になされている。

MSをキャラクターとして描写する手法は、感情をぶつけ合う戦闘が繰り広げられる『SEED』という作品にマッチしたアプローチであり、放送終了後から現在まで『SEED』のガンプラシリーズや、より人間的な動きを表現できるフィギュア類が数多くリリースされて人気を博している大きな理由となっているのだ。

そして様々なドラマを経て『鳴動の宇宙 HDリマスター』が辿り着くラストシーンは、ある意味『ガンダム』を彷彿とさせながら、まったく別の地平へと誘う印象を抱かせるものである。

『ガンダム』のラストシーンは、最後の戦いを終えた主人公アムロ・レイがニュータイプの能力によってホワイトベースの仲間たちが待つ脱出艇と辿り着く形で幕を閉じた。「(ララァに向けて)ごめんよ、まだ僕には帰れる所があるんだ。こんなに嬉しいことはない」と涙を流すアムロ。かつて孤独の中で生きていた少年が、戦いを通じて仲間を得ることができたという「大団円」で幕を閉じる。
一方、『SEED』はどうか。全ての戦いを終え、大破したフリーダムガンダムから抜け出し、孤独に宇宙空間を漂うキラはやはり涙をこぼし、こう呟くのだ。
「僕たちは……どうしてこんなところへ来てしまったんだろう……僕たちの世界は」と。

『SEED』のスタート地点のキラもまた、アムロと同じ孤独な少年だった。だが、シリーズ後半で覚醒した彼は、最後に別種の孤独を身にまとうことになる。
それは理屈や理想だけでは解決できない事象とぶつかり、自らを傷つけながら前に進み続けた末にいろんなものを失ってしまったことへの悲しみ、ここまでの愚行を繰り広げてしまった人類とコーディネイターへの絶望、人々の幸せを願いながらそれを果たすことができなかった自分自身への罪の意識から来るものなのかもしれない。
キラの涙の中に何を見出すか――それこそが『SEED』から送られた私たちへのメッセージなのかもしれない。

>>>『ガンダムSEED』のクライマックスを見逃すな!『鳴動の宇宙』名場面をチェック!(写真25点)

(C)創通・サンライズ

アニメージュプラス編集部

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