• 『君たちはどう生きるか』スタッフが語るドルビーシネマならではの「こだわり」
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2023.09.26

『君たちはどう生きるか』スタッフが語るドルビーシネマならではの「こだわり」

『君たちはどう生きるか』(C)2023 Studio Ghibli

宮﨑駿監督の約10年ぶりの長編アニメーション『君たちはどう生きるか』。現在も好評上映中である本作は、広色域で鮮明な色彩と幅広いコントラストを表現するHDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)映像を実現したDolby Vision(ドルビービジョン)と、リアルな立体音響技術・Dolby Atmos(ドルビーアトモス)を楽しめる「Dolby Cinema(ドルビーシネマ)上映」でも大きな注目を集めている。

スタジオジブリのスタッフは、ドルビーシネマ化に向けてどのようなアプローチをしたのか。スタジオジブリ執行役員/映像部長/エグゼクティブイメージングディレクターであり本作で撮影監督を務めた奥井敦さん、そして本作でポストプロダクションを担当した古城環さんを招いての取材会の様子をお伝えしよう
▲(左から)奥井敦さん、古城環さん

『思い出のマーニー』(2014年)制作中にドルビーシネマの情報を聞いた奥井さんは、2015年にロサンゼルスで行われたドルビーシネマのデモンストレーション試写に参加したところ、「(HDR映像内の)黒の締まり方とハイライトの乗り方に衝撃を受けて、『次はぜひこの技術を使いたい』と思った」そうだ。
ちょうどその頃、スタジオジブリは三鷹の森ジブリ美術館の短編アニメ『毛虫のボロ』を従来通りのSDR(スタンダード・ダイナミック・レンジ)で制作中であったため、完成後にボロのデータでドルビーシネマ化のテストを行い、HDR対応のテレビで試写を行ったところ、その仕上がりを宮﨑監督は大変気に入り、「次の長編を作る際には是非やってみよう」ということになったそうだ。

スタジオジブリ初のドルビーシネマ作品となったのは宮崎吾朗監督『劇場版 アーヤと魔女』(2021年)。元々テレビ用の企画だったが、フルCG作品だったのが幸いし、HDR用のデータを再取得することで制作が可能となった。そして、その時既に『君たち~』の制作は始まっていたため、「『アーヤ』は壮大な実験場」(古城さん)となったという。

『君たち~』でのドルビーシネマ化の作業で、奥井さんは「基となるSDRのデータとかけ離れてはいけない」という点に気を遣い、シャドウの締まり部分など有効に使える部分をシーンごとの調整を行ったという。
HDRならではの見どころについては、青サギが太陽を背に迫って来るシーンと、冒頭の灯火管制の敷かれた暗いシーンを挙げる。「SDRでは(暗く)落としきれなかった部分をドルビービジョンで表現したいという想いがあり、それを実現できました」(奥井さん)。
▲奥井敦さん

音響に関しては「前作の『風立ちぬ』でモノラル音声を選択したこともあり、ドルビーアトモスを用いて宮﨑監督から『うるさい!』と言われない按排を意識した」と笑う古城さん。さらに音響チームの合言葉は「引き算」とのことで、「『迷った時は(音を)外しましょう』という流れに。特に前半は静かなシーンが多いので、まずは絵と音のバランスに注意して、音響演出の方に『こんなに静かで大丈夫ですか?』みたいなやり取りから始まって、そこから空間の広がりを重視して作業を進めました」と現場の状況を伝えた。

「今回は二つのダビングステージを使うという悩みがありました。最初に今回は最初に5.1ch、7.1ch音声を仕上げて、それとは別にアトモスの音声を仕上げました。とはいえ、『アーヤの魔女』の時に5.1ch音声からアプコンする限界も感じていたので、いろいろ相談しまして音の仕込みはアトモスネイティブで進めました」(古城さん)

(C)2023 Studio Ghibli

アニメージュプラス編集部

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