• 武内駿輔さんが語る映画『バービー』、そしてケン役を通して見た「自分らしさ」(後編)
  • 武内駿輔さんが語る映画『バービー』、そしてケン役を通して見た「自分らしさ」(後編)
2023.10.24

武内駿輔さんが語る映画『バービー』、そしてケン役を通して見た「自分らしさ」(後編)

武内駿輔さん


◆結婚して変わった価値観 完璧じゃない自分を認める◆

――こうだったらいいなっていう理想があって、同時にそれと折り合わない現実があって、その間を行ったり来たりするのが、この物語の大筋だと思うんですが、武内さんご自身は、そうした理想と現実とのギャップがある場合、理想にどんどん寄せていこうと頑張るほうなのか、ある程度折り合いをつけていくタイプなのか、どちらでしょうか?

武内 昔は、自分の理想に向かってどんどん進んでいくっていう感じでしたけど、やっぱり結婚してからすごく価値観が変わったなと思いますね。完璧じゃない自分を認めないっていうのは、やっぱりよくないなと思うようになりました。友人とか対人関係でもそうですけど、変な期待感を持たないっていうんですかね。どんな状態でも人間には誰しも素敵な部分があるし、逆になんかちょっとだらしなかったりダメだなって思ったりする部分があってもいいんじゃないか、完璧を求めてもキリがないんじゃないかと。そういう意味では、理想はあるけれども、地に足をつけて、今の現実の自分のこともちゃんと認めてあげることの大切さっていうのは、最近になって思うようになりましたね。だから、ちょうどそのタイミングでいただいたお話がこの『バービー』だったので、まさにこれだっていう感じで。

――自分の今の心の動きにもすごく合う作品だったということですね。

武内 そうですね。それこそ、バービーが「歯を磨いて寝ても朝起きたら口が臭いの」って言ったりするのとかもそうじゃないですか。「あんなに綺麗な人なら、あんなにかっこいい人なら、そんな一面ないでしょ、寝癖とかつかないでしょ」みたいなイメージを持ってしまうのに対して、「俺はなんで寝癖つくんだろう」とか、「なんで家にいて、タンクトップで、コンタクトもしないで眼鏡して、なんでこんなぼろ雑巾みたいな人間なんだろう」みたいな、 そういうことを昔はすごく思ったんですけど、最近は「まあ、でも、みんな人間だし、誰しも裏の裏まで完璧ってことはないよ」っていう風に思っていて。バービーの「常に完璧じゃないと私が私でいられなくなる」みたいなところとかは、やっぱりそういうギャップに1回はみんな行き着くんだろうなって思いましたし、『バービー』ではそれをあらためて客観的に、そうじゃなくていいんだよって教えてもらえたような気がして、自分のためにもなるいい映画だなっていうことはすごく思いましたね。

――みんなが思う自分でいられない自分を許してあげられるように。

武内 そうですね。何か落ち着かないっていう気持ちも、それで別にいいんじゃないっていうか、難しく考えなくていいよっていう、それをバカバカしいことだと思わせてくれるのがいいですよね。「いいですか、誰しも人間は完璧ではありません」って真剣にやられてしまうと、また考えちゃうような気がするんですよ。いや、そうじゃなくてバカバカしいことだよって、だってほら極端にやったらこういうことでしょっていうのを体現してくれたのが、この『バービー』っていう映画じゃないかなと思います。

――バービーにもケンにも、現実世界とリンクする中で持ってしまった悩みがあるじゃないですか。特にケンは、自分のアイデンティティがどこにあるのか、バービーの付属物ではない自分とは何なのかと苦悩する。そんなケンに共感する部分はありますか?

武内 めちゃくちゃありますよね。やっぱり人間誰しも、他人の力を借りたくなっちゃうことはありますし、気持ちはわかるんですよね。「俺、誰々と仕事してるよ」とか、 「誰々と仲いいよ」とか、「この間こういうお店に行ったんだよ」とか、何かしらの、他人のブランド力とか功績みたいなものに乗っかっちゃう気持ちってすごくわかるなって。僕らはやっぱり役者なので、どういう作品に出たかっていうのってすごく大事なところでもあるので、まあそれは仕事柄仕方がないかなって思ったりもするんですけど、そういう中で、じゃあ何にもなくなった時にあなたは何ができますかっていうのは、やっぱり常に考えるようにしなくちゃいけないなとは思っているんです。でもたぶん、そういう悩みって一瞬で解決するような問題ではなくて、それを常に考えていくっていうことが 自分らしさなんじゃないかなと思いますし、自分らしさを探すっていうことが人生の目標の1つでもあるのかなとも思うので、ケンは初めて自分の人生を歩むことの面白さに気付けたんじゃないかなっていうのが僕の解釈です。なので、そういった意味も含めて、ケンと一緒に頑張っていきたいなって思いましたね。

でも、それって別にケンだけじゃないっていうのもありますよね。バービーもバービーで、やっぱり自分がわからないというか、バービーの世界観の中で、バービーとはこういうものだっていう周りが作ったバービー像に流されてずっとバービーをやっていたっていう感じだったので。やっぱり、そこに気づけるだけで大きく違うんじゃないですかね。たとえ今、自分に他人とは違う何か大きな武器みたいなものがなかったとしても、いや、それを探すこと自体が楽しいんだっていうことに気付けるだけで、だいぶ人生って違うんじゃないかなと思うので、ケンと一緒で、バービーも気づくことができてよかったなと思います。

◆注目ポイントはアラン!?◆

――最後に、映画『バービー』の見どころをあらためてお聞かせください。

武内 単純に視覚的なところで言うと、もう毎シーンが全部ミュージックビデオのようなポップさですし、ファッションセンスや美術も素晴らしくて、本当に難しいことは考えずに観ても楽しめると思いますね。ただ視覚効果として流し見するだけでも成立するぐらい、そういったビジュアル面にはこだわられた作品だなと思います。
やっぱり、男性と女性で価値観は違うんだけど、結局やってることって同じだったりとか、分かり合えるところもあれば、なんでこういうことになるんだろうみたいなことが、たとえばカップルの方とかが見たら相手の気持ちが多少はわかるんじゃないかなって思うんですよ。
あとは、親子で観るのもすごくいいかなと。お子さんが見ても、そんなに深い内容はわからないかもしれないですけど、単純にバービー可愛いなとかでも全然いいと思いますし。子供のうちに芸術的なものに触れる機会って、すごく大事なことなんじゃないかと思うので、これはどういう造形でこういう色だから美しいんですみたいな理屈じゃなくて、単純にぱっと見て自分の好きな色を見つけるというか、「ピンクがいっぱいあるからピンクが好き」とか、「今出てきたこのローラースケートの黄色が好き」とか、何も考えずに見ても感覚的に楽しめる映画だと思います。
そういった色々な面を持った映画なので、気軽に思い立った時に何回でも観ていただくと、また見え方が違うのかなと思いますね。観る人のその時の体調とか精神状態によってもかなり感じ方が変わるでしょうし、何回でも色々なシチュエーションで観ていただきたいです。

――その中で、特に注目してほしいポイントを敢えて1つ挙げるとしたらどこですか?

武内 注目ポイントはアランですね(笑)。『バービー』のドキュメンタリーを観た時にも、アランって出てこなかったんですよね。実際、調べてみても、日本だけじゃなくて世界的にもアランの情報はあまり出てこなくて。そんなバービーの世界でもちょっとマイナーな存在であるアランが、ちゃんと登場人物として出ていて、なんとかみんなの輪に混ざろうとするあの感じ。それと、下野さんが「僕もいるよ」って、すっとした少年声で言ってくるあのアランの雰囲気がすごく好きで。僕はああいうのをずっと見ちゃうタイプなので。アランもぜひ忘れないで、ケンだけじゃなくてアランも注目していただければ。アランって、ものすごく強いオンリーワンなんだけど、なぜか最初から最後までみんなに微妙に混じれないんですよね。あの憎めないアランに注目していただきたいですね。

――ありがとうございました!

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アニメージュプラス編集部

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