• 【腐海創造】竹谷隆之が語る「チームワークで生み出したナウシカの世界」
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2023.04.28

【腐海創造】竹谷隆之が語る「チームワークで生み出したナウシカの世界」

「王蟲の世界」設営中の風景 撮影:たけやけいこ 漫画『風の谷のナウシカ』 宮崎 駿(C)Studio Ghibli


――竹谷さんは宮崎さんのデザインの魅力をどういうところに感じますか。

竹谷 どこか愛嬌がある、というところでしょうか。ヘビケラの顔は「怖くしすぎちゃったかな」と反省しているんですが(笑)、ウシアブなんかは可愛らしくできていると思います。
▲ヘビケラの顔は怖すぎた?

――作業中に苦労したことやトラブルなどはありましたか。

竹谷 それはほとんどなかったですね。大きいものを組み上げるのは専門家のチームの方たちにテキパキと進めて頂いて、僕はただ宮崎さんのファンアートで遊ばせて頂いているという感じでしたから。もしかしたら、僕の知らないところで何かあったのかな……?(笑)

――とはいえ、先ほどのお話だと竹谷さんにとってチームワークはある意味新たなトライであったわけですよね?

竹谷 そうですね、映画の現場などには参加したこともありますが、座長的な扱いをされたのは今回初めてです、まあ、こちらはただただ手を動かしていただけですけれど。

――チームワークだと竹谷さんのイメージを皆さんで共有する必要があると思うのですが、その辺りも問題なく進められたのでしょうか。

竹谷 こちらで作った雛形を基本として、皆さんそれぞれで作業を進めていただいたんですが、それでもうバッチリだったんですよ。打ち合わせで「腐海の植物、こんな感じで良いですか?」みたいなやり取りは何度かありましたけど、そもそも皆さんが宮崎さんの世界観を愛しているのが大きいと思います。
▲腐海の個性的な菌類の存在感に圧倒される。

――本書には主に4つの作品が紹介されていますが。特に印象に残ったお仕事といえばどれになりますか。

竹谷 「風使いの腐海装束」は衣装を専門の方にお願いして、小物は僕らが担当したんですが、これは楽しかったですね。本当に仕事というより、「好きなものを作ってるだけ」って感覚で。博物館の展示物というコンセプトなのでナウシカ本人を作らなくていいし、気も楽でしたよ(笑)。

――こういう形での衣装というのも、ある種のチャレンジではなかったですか。

竹谷 実は僕、民族衣装が大好きでいろんな書籍や資料を買い込んで眺めていたので、そういうエッセンスを扱う良い機会になりました。例えばアイヌ民族の衣装などを見ていると、袖口や襟口、背中に模様が入っているんですね。それって、そこから悪い病気が入って来るのを防ぐための魔除けの意味合いがあって、他の国や地域でも共通した考え方が多いんですよ。なので、そういう考えを意匠に取り入れたりしました。

――今回の書籍で面白いと思ったのは、制作の工程を追う普通の本ならばあまり載せないような写真が掲載されているところです。例えば「王蟲の世界」の王蟲は、補修をする際に内部へ入るための入口が後方に作られていることが、初めてわかりました。
▲巨大な原型を扱うため作業は倉庫で行なうことに。

竹谷 僕の普段の仕事だと造形で終わるので、そこはまったく考えないところなんですよ(笑)。王蟲は目を光らせる部分のメンテナンスが必要な時がありますので、中に入れるような構造にする必要がありますし、さらに言えばいろいろなところを巡回するので、バラして運んでまた組み上げてということが合理的にできるように作られているんです。

――竹谷さんのイメージを各会場に持ち運びできるよう、スタッフの方が再設計されているということですね。「朽ちゆく巨神兵」を車で輸送する写真からも、そういった苦労が感じられました。

竹谷 王蟲に比べたら巨神兵のサイズはまだ可愛いものなんですが、コロナのせいで2年近くイベントの開催が延びたので、完成させないままずっと家に置いてあったんですよ。これがもう邪魔で邪魔で(苦笑)。あと、家から出す時に引っかからないよう、周りのサイズ確認をしていたんですが、2年経ったら出し口近くに生えていた銀杏の木の幹が太くなって邪魔をするようになったので、それも困りましたね。

――展示を見たスタジオジブリの反応などで印象に残ったものはありますか。例えば、件の鈴木さんの感想などは……。

竹谷 「王蟲の世界」を鈴木さんは、初めて展示を組み上げた2019年の福岡会場で見たんですよ。福岡のテレビが密着して初対面の様子を撮ると聞いたので、「酷いことを言われたらどうしよう」とドキドキだったんですが、「すごいね!」と言ってくれました。でも、その後「(安心して任していたので)心配がないのもつまんないよね」と続けられたので「いや、僕はずっと心配していましたけど!」と返しましたよ(笑)。

――今まではナウシカの世界を手掛けていらっしゃいますが、今後トライしたいジブリの世界はありますか。

竹谷 妄想はいろいろ膨らみますね。『天空の城ラピュタ』も大好きなので、ロボット兵を作ってみたいですね。

――この本を読んで「自分もこういう世界を作ってみたい」「造形作家になりたい」という方が出てくると思うのですが、そんな方たちに、最後に何かアドバイスの一言を戴けますか。

竹谷 造形をやるんだったら、まずいろんなものに興味を持って観察することでしょうか。そしてこれはどんな仕事にも言えると思いますが、いろんな人と話す機会を持つこと、憧れる「誰か」を追いかけるではなく今の自分の先を目指すことが大事だと思います。
この本が造形に限らず、様々な創作活動へ進むきっかけになってくれると嬉しいですね。

※宮崎駿監督の「崎」はたつさき

竹谷隆之(たけや たかゆき)
造形家。1963年北海道生まれ。阿佐谷美術専門学校卒業。映像、展示、ゲーム、トイ関連でキャラクターデザイン、アレンジ、造形を手がける。
「巨神兵東京に現わる」で巨神兵の雛形制作、映画「シン・ゴジラ」ではキャラクターデザイン、「ジブリの大博覧会・王蟲の世界」の雛形制作・造形監修。タケヤ式自在置物シリーズでは「ヘビケラ」、「王蟲」、「大王ヤンマ」、「トルメキア装甲兵」などの企画・デザインアレンジを担当。
主な出版物 /「漁師の角度 完全増補改訂版」(講談社)、「ROIDMUDE竹谷隆之 仮面ライダードライブ デザインワークス」(ホビージャパン社)、「畏怖の造形」(玄光社)、「腐海創造 写真で見る造形プロセス」(徳間書店)など。

>>>腐海の世界を生み出していく竹谷さんたちの作業風景を見る(写真15点)

漫画『風の谷のナウシカ』 宮崎 駿(C)Studio Ghibli
※宮崎の「崎」は立つ崎

アニメージュプラス編集部

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