『ナウシカ』が制作・公開された1980年代前半、宮﨑監督はまだ現在ほどの知名度は獲得していなかったが、先の2作の強い印象によって、一部の熱心なアニメファンの間では「宮﨑作品のヒロイン=島本須美」というイメージが共有されていたと言っていいだろう。
宮﨑監督の手による漫画原作はアニメージュ誌上で1982年から連載が開始されていたが、読者の間では早くから「もしアニメ化されるなら、ナウシカ役は島本須美で」という願望の声が挙がっていた。
実際のナウシカ役はオーデョションを経て決まったものだが、当時のファンにとって島本がナウシカを演じることは「待望」であったと同時に、ある意味「必然」とも感じられたはずだ。
島本もまたその期待を裏切らない、むしろ期待を遙かに上回ったナウシカ像を表現したことは本作を観れば一目瞭然だ。
清楚さ、透明感、はかなさ、優しさ、その奥にけっしてブレることのない凜とした芯の強さーー島本の声と演技はナウシカという少女を構成する複雑な魅力をそれぞれ的確に表現したことで、文字どおり宮﨑駿のミューズというイメージを決定づけたのだ。
その後、島本は『小公女セーラ』(1985年)のセーラ役や『めぞん一刻』(1986年)の「管理人さん」こと音無響子役、『ジャイアントロボ THE ANIMATION ~地球が静止する日〜』(1994年)の銀鈴役など印象的なヒロインを演じ、多くのアニメファンの憧れの存在となった。
ジブリ/宮﨑作品との縁も続き、『となりのトトロ』(1988年)ではサツキとメイの母役、『もののけ姫』(1997年)ではトキ役で出演。2021年から全国各地で開催されている「アニメージュとジブリ展」ではアンバサダー&音声ガイドナビゲーターを務め、各会場でのイベントにも登場、当時とまったく変わらない声で来場客を楽しませている。
公開から40年近くを経てもなお、全く色あせることのない映画『風の谷のナウシカ』――今回の放送では、ナウシカに永遠不滅の存在感を吹き込んだ “島本須美の声” に注目して楽しんでみてはいかがだろうか。
>>>ジブリヒロインの先駆け的存在・ナウシカの名場面を見る(写真9点)
(C)1984 Studio Ghibli・H