• アニメ評論家・藤津亮太が語る「2023年劇場アニメ」の注目すべき豊かな成果
  • アニメ評論家・藤津亮太が語る「2023年劇場アニメ」の注目すべき豊かな成果
2024.01.12

アニメ評論家・藤津亮太が語る「2023年劇場アニメ」の注目すべき豊かな成果

2023年劇場アニメの大きな収穫のひとつとなった『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(C)映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会


◆賛否両論!?『アリスとテレスのまぼろし工場』の評価は◆
――注目作としては、岡田麿里監督の『アリスとテレスのまぼろし工場』(9月15日公開)もありました。

藤津 僕はとても面白く観ましたけれど、数字は期待したほどは伸びなかったようで、少しもったいないなぁという思いがあります。いろいろな人の感想を聞いたり、SNSの反応を見たりしましたが、単純に「あの世界が飲み込めない」というところでひっかかっている人が多いのかなというのは感じましたね。
▲『アリスとテレスのまぼろし工場』 (C)新見伏製鐵保存会

――それはどういう部分が?

藤津 例えば、あの世界にはコンビニやスーパーマーケットもあるのですが、食べ物はどこからきているの? とか。つまり、通常のSF作品なら閉鎖空間というものを成立させるロジックが必要になるわけです。
あの作品はそういうところは気にせず、象徴として「止まった街」という場所を置いた、一種のファンタジーなんですが、そこに引っかかっている人がいる。なぜそういうことが起きるのか、いろいろ考えてみたんですが、自分なりに考えた結果としては、作品に込められた「感情の解像度」が高いからなんではないかと。

――確かに、ドラマで描かれる登場人物たちの感情は、非常にリアルで生々しいですよね。

藤津 そう、それなのに世界の細部の解像度はあえて下げている。このギャップが、うまく作品を飲み込めない人を生んだのではないかなぁ……と、まあ、そう受け取る気持ちもわからなくはないです。でも、あの映画は一種の「寓話よりの文芸作品」というか、壮大な例え話のようなものなので。主人公たちの気持ちはわかりやすく表現されているし、その上で奇妙な世界の意味合いを読解して楽しめばいい。そういう方向で受け取った人はOKだと思うんですが、そこが評価が分かれたポイントなのかなと

――70年代~80年代の邦画の影響下にある、ということもあってか、個人的には鬱屈した田舎から飛び出したいと願うシナリオライター志望の青年の日常を描いた『祭りの準備』(1977年公開/黒木和雄監督)に重ねて観ている部分がありました。

藤津 そういう受け取りができる作品ですよね。僕が考えたのは、実は『機動戦士ガンダム 水星の魔女』との対比です。『水星の魔女』は放送後に “結婚騒動” とかありましたが(笑)……スレッタとミオリネの二人がある種の共感を抱き合って、手を取り合っているのは間違いない。でも、あの二人は「恋愛」をしていたのだろうか? という感覚が僕には若干ありまして。『水星の魔女』に限らず、二人の関係性の変化を描いていくことで「この二人が深いところでつながる」というお話はたくさんあるけれど、それだけでは「恋愛」を描いたことにはならないんじゃないかと普段から感じていて。

これは別に『水星の魔女』に限った話ではなく。世の中の物語の多くにみられる「偶然の出会いっぽく始まって、恋愛っぽく終わる」物語における「恋愛」は、基本的にはお話を進めていくためのギミックなんです。この人とこの人が関わり合う理由は何か? それは一目惚れ的な何かだけれど、一目惚れだけでは成立しないから、その後、ケンカをさせたり、相手のことを見直したりといった展開を入れて関係を深めていく。それはそれでギミックを意味あるものとして使いこなしている、という意味でよくできているのだと思います。

けれど、そのプロセスで生まれるのはいわゆる「友情」とどう違うのか? と思うこともあるわけです。恋愛と友情の差異は単純に線で区切れないからこそ、そこが気になる。そこについて『アリスとテレス』は、そこでの感情の解像度が異様に高く、恋愛というものが、ある種の熱狂で、それが人の世界を変えていく様子が描かれていて、これは正しい意味で「恋愛映画」だなと思ったんです。単に「相手がかけがえのない存在だから」では終わらない、執着がある。

――他のいかなる関係性とも明確に異なる「恋」という感情が明確に描かれている。

藤津 そう、そこがあの映画の面白いところだし、岡田麿里さんらしいところだなと感じます。

アニメージュプラス編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事

RELATED関連する記事

RANKING

人気記事