• アニメ評論家・藤津亮太が語る「2023年劇場アニメ」の注目すべき豊かな成果
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2024.01.12

アニメ評論家・藤津亮太が語る「2023年劇場アニメ」の注目すべき豊かな成果

2023年劇場アニメの大きな収穫のひとつとなった『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(C)映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会


◆『君たちはどう生きるか』をどう観たのか◆
藤津 そういえば、『アリスとテレス』は若い頃のお父さんが恋愛対象になる展開ですが、『君たちはどう生きるか』は若い頃のお母さんがヒロインですよね。対照的ということでもないけれど、おもしろい対比になっていますよね。

――では、この流れで『君たちはどう生きるか』の話を。藤津さんはあの映画をどう観ましたか?
▲『君たちはどう生きるか』 (C)2023 Studio Ghibli

藤津 僕は面白かったですよ。面白かったけれど……それが「宮﨑さんの人生」なのかどうかは別にして、宮﨑さんがこれまで何を描いてきたかを知っているからこそ、「ああ、ここに行ったのか、ここに至ったのか」という感慨が強かったという気もします。
要は、宮﨑さんが世界をどのように捉えたいと思っているかがしっかり表現されていて、そこは非常に面白かった。けれど、これは知り合いの感想で、それはそれでわかるなと思ったのですが――「言いたいことが一杯あるのはわかるけど、全部が抽象的だった」と(笑)。

――ああ、言いたいことはわかります(笑)。

藤津 僕らはその抽象性を埋められるだけの、かつての宮崎作品の鑑賞ストックを持っているけれど、一般の人がぽんと観ておもしろいかというと、そこまで噛み砕いてはくれていない。そして宮﨑さんももう、噛み砕く気はないのだろうな、と。実はその辺りも覚悟して観たのですが、意外にシンプルなファンタジーだった点も含めて、僕にはとても面白い映画でした。

それから、誰もが言うけれど、黒澤明の晩年の作品を思わせる雰囲気は確かに感じました。実はうちの父親が宮﨑さんと同年生まれなのですが、その父親を見ていると「やはり80歳を過ぎると、見る世界が少し変わるのかもしれないな」と思ったんですね。単なる「衰え」とは違って、世界の見え方そのものが変容するんだということは納得のいく話で、『君たちはどう生きるか』にも同じような感覚を見つけることができて心を打たれます。

あと、個人的にはあちこちでインコを推しているんですが、「インコ、そんなに可愛くないじゃん」と言われるのが、納得がいかなくて(笑)。後ろ手に包丁を隠し持っているところとか「鳥だから脳みそ小さい」という感じがして可愛いですよね。

――そうしたディテール部分に、チャーミングなポイントが多い作品でもありましたね。では最後に、2023年の劇場アニメ全体を俯瞰して感じたことをお聞かせください。

藤津 80年代前半に池田憲章さんが書籍『アニメ大好き!』(1982年)の中で「これからは作家の時代だ、作り手の名前で作品を観ていくんだ」とおっしゃっていたけれど、40年経ってそこに辿り着いたのではないか――という話を去年お話した記憶があるのですが、2023年は実際そう感じられるようなラインナップが揃った印象です。

そして、メディア側もその動きを理解してきていて、アニメを「作る人」をちゃんとピックアップするという意識が強くなっている。例えば『窓ぎわのトットちゃん』だと「徹子の部屋」のゲストに主演の大野りりあさんなだけでなく八鍬新之介監督も呼ばれるなど、「この人がいるから、この作品がある」「これはこの人の作品である」という視点で扱われることが増えてきたと思います。
これは2016年の新海誠監督のブレイクを起点とした動きと言えますが、実際に出てくる作品も確かに「その人」でないと生まれないものになっている。そういう時代になってきたのかなという風潮を、去年にも増して強く感じました。

藤津亮太(ふじつ・りょうた)
1968年生まれ。アニメ評論家。新聞記者、週刊誌編集部を経てフリーライターに。アニメ・マンガ雑誌を中心に執筆活動を行う。近著は『アニメと戦争』(日本評論社)、『アニメの輪郭 主題・作家・手法をめぐって』(青土社)、『増補改訂版「アニメ評論家」宣言』。

治郎丸慎也(じろまる・しんや)
1968年生まれ。1991年徳間書店に入社、月刊誌・週刊誌の編集部などを経て、2020年よりアニメージュプラス編集長に。

アニメージュプラス編集部

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